【ゼミテーマ紹介】天候依存度を活用した観光ルート推薦

概要 2025年度4年ゼミ生の瀬下采未さんが,「天候依存度を活用した観光ルート推薦」というテーマでICT活用総合実習に取り組みました. 観光産業において「天候」は観光客の行動決定や満足度に大きな影響を与えます.特に新潟県佐渡島のように,冬季の厳しい気象条件(降雨・強風・降雪)が観光体験の質を左右する地域では,天候を考慮したルート提案が不可欠です.しかし,既存の観光ガイドブックやルート検索アプリは基本的に「晴天」を前提として設計されており,急な悪天候に対応できません.瀬下さんは,1時間ごとの気象予報データと観光施設の属性(屋内・屋外・複合型,季節営業等)を統合し, 天候リスクを最小化する観光ルートを動的に提案するシステム を開発しました. なお,本テーマは新潟県観光協会との 意見交換 をきっかけに着想を得たもので,成果は アーバンデータチャレンジ2025に応募 しています. テーマのポイント 課題:「冬はフェリーが欠航する」というイメージの壁 佐渡島は金山遺構やジオパークなどの屋外観光資源が豊富ですが,冬季は強風によるフェリー欠航のイメージから観光客が激減します.実際には大型カーフェリーの就航率は比較的高いものの,「現地の天候イメージが悪いために敬遠される」というギャップが存在します.また,既存のモデルコースは静的な情報に基づいているため,「日没後に景勝地に到着してしまった」「閉館時間に間に合わなかった」といったリスクに対応できていません. アプローチ:場所・時間・気象の3要素を統合 本システムの中核は, 気象適応型スコアリング(Dynamic Scoring) というアルゴリズムです.観光スポットの評価値を以下の3つの要素で動的に変動させます. 静的スコア(Static Value) — Google Mapsのレビュー評価など,場所そのものの魅力を表す不変の指標 動的スコア(Dynamic Value) — 到着時刻の気象データ(降雨・降雪・強風)に基づくリアルタイムの減点.例えば降雨2mm/h以上で屋外スポットは大幅に減点 事後期待スコア(Expected Value) — 「今」ではなく「この後」に残された時間で得られる満足度の期待値 これらを組み合わせた貪欲法によるルート探索で,悪天候時には屋内施設を優先し,好天時には景勝地を効率よく巡るルートを自動生成します. 使用技術 気象データ:Open-Meteo API(1時間ごとの気温・降水量・降雪量・風速・日没時刻) 地図描画・可視化:Folium,OpenStreetMap データ処理:Python,Pandas 観光スポットDB:佐渡市相川地区の主要観光地10箇所の属性を独自にデータベース化 シミュレーション結果:天候でルートが変わる 同一日時・同一出発地点で「快晴」と「15時から雨」の2シナリオを比較したシミュレーションでは,システムの挙動の違いが明確に表れました. 快晴時には屋外の景勝地(史跡 佐渡金山,大間港など)を効率よく巡り,日没に合わせて夕日の名所を高得点で提案します.一方,15時から雨が予測されるシナリオでは,13時台のうちに屋外スポットの訪問を前倒しし,雨が降り始める15時以降は「佐渡奉行所跡」「きらりうむ佐渡」といった屋内施設へ自動的にルートを変更しました. また,佐渡観光ナビで紹介されている既存のモデルコースを本システムで冬季シナリオに適用したところ,16:30閉館の施設に16:40到着となるなどの問題が検出され,静的なモデルコースの限界と本システムの有効性が確認されました. 成果と展望 本テーマは,ゼミの「地域課題×データ活用」の取り組みの一環として,新潟県観光協会へのヒアリングから着想を得ました.今後は対象エリアの佐渡全島への拡大,口コミテキストの感情分析による静的スコアの精度向上,フェリーの運航状況を含めた「佐渡に渡る前」からのシームレスな経路推薦が課題です.

March 23, 2026