【出張報告】音学シンポジウム2026で発表しました(K-POPの歌詞と音楽のズレ/卒業実習の発展・共著)

2026年6月5日〜6日,電気通信大学(東京都調布市)で開催された 情報処理学会 音学シンポジウム2026(SIGMUS) において,ポスター発表を行ってきました. 本発表は,2025年度の4年ゼミ生 安達萌衣さん(現・株式会社ミロク情報サービス)がICT活用総合実習で取り組んだ研究を,教員(鈴木)との 共著 として学会発表へと発展させたものです.安達さんの卒業研究については,以前の記事「【ゼミテーマ紹介】K-POPにおける歌詞構造と音楽的区切りの不一致が生み出す表現効果の分析」で紹介しています.本記事はその続編にあたります. 発表情報 発表題目:K-POPにおける歌詞構造と音楽的区切りの不一致が生み出す表現効果の分析 著者:鈴木源吾(開志専門職大学 情報学部)・安達萌衣(株式会社ミロク情報サービス) 会議:情報処理学会 音楽情報科学研究会 音学シンポジウム2026(SIGMUS,MUS/SLP合同研究発表会) 会期・会場:2026年6月5日〜6日/電気通信大学(東京都調布市) 形式:ポスター発表 研究の概要 K-POPグループ SEVENTEEN の楽曲制作を担う WOOZI(ウジ) が手がけた楽曲には,「살아가(生きていく)」が「살아|가(生きて|いく)」のように,言葉の途中で音を区切る「不自然な分断」が頻繁に見られます.本研究では,この現象が偶然ではなく意図的な表現技法なのか,そして楽曲の魅力に貢献しているのかを,音声処理と自然言語処理を組み合わせて定量的に検証しました. SEVENTEEN の韓国語楽曲18曲を対象に,AI音源分離ツール Demucs でボーカルを抽出し,DAWソフト REAPER で無音区間を検出,韓国語NLPライブラリ KoNLPy による形態素解析で分断を分類しました.その結果,不自然な分断の発生率は楽曲によって0%〜40%超まで大きく異なること,約6割が形態素の内部で生じる「強不自然型」であること,WOOZIの制作関与度が高い楽曲ほど不自然な分断が統計的に有意に増加すること(p = 0.0378)などが示され,不自然な分断が意図的な表現技法として楽曲の魅力形成に寄与している可能性が示唆されました. ポスターセッションでいただいたコメント ポスターセッションでは多くの方に足を止めていただき,今後の研究に直結する貴重なコメントを数多くいただきました. 音楽構造理論(GTTM)との接続:歌詞の係り受け構造と音楽の構造ツリーを比較する研究との関連づけが示唆されました. J-POP・通時的な比較:宇多田ヒカル「Automatic」など,J-POPにも類似の現象があり,年代・作家による様式変遷として比較できるのではないか,という指摘をいただきました. 言語ごとの特徴(韓・日・英)との結びつけ:韓国語・日本語・英語では,語の組み立て方や音節の構造が異なります.こうした言語による違いが,分断の起きやすさにも影響しているのではないか,という示唆を得ました. 分断の「長さ」への着目:無音の長さや,サビなど発生位置との関係を見るとよい,というコメントをいただきました(既存データで分析に着手済みです). いただいたコメントは,今後の論文誌・国際会議への投稿に向けた改善に活かしていきます. おわりに 学生のゼミ研究が,卒業後も学会発表という形で社会に発信され,研究者コミュニティから新たな知見を得て次の展開につながっていく——その手応えを実感できる,大変有意義な出張となりました.会場では,ポスターを見た学生から「自分もこういう研究をやってみたい」という声もいただきました.「好き」という身近な気持ちや,日常のふとした気づきが研究の出発点になりうる——そのことをあらためて感じられたのも,今回の大きな収穫です.音楽好きならではの着眼点から始まったこの研究が,これからどのように育っていくか,引き続き取り組んでいきます.

June 6, 2026

【ゼミテーマ紹介】K-POPにおける歌詞構造と音楽的区切りの不一致が生み出す表現効果の分析

概要 2025年度4年ゼミ生の安達萌衣さんが,「K-POPにおける歌詞構造と音楽的区切りの不一致が生み出す表現効果の分析」というテーマでICT活用総合実習に取り組みました. K-POPグループ SEVENTEEN の楽曲制作の中核を担う WOOZI(ウジ)が手がける楽曲には,歌詞の言語的な区切りと音楽的な区切りが一致しない箇所が頻繁に見られます.例えば「살아가(生きていく)」という歌詞が「살아|가(生きて|いく)」のように単語の途中でブレスが入る現象です.安達さんはこの現象を「不自然な分断」と名づけ,それが偶然やミスではなく意図的な表現技法であることを,音声分析・自然言語処理を組み合わせた定量的なアプローチで検証しました. テーマのポイント 「不自然な分断」とは 通常,歌唱では言葉の意味のまとまりと音の区切りを一致させるのが自然です.しかし WOOZI の楽曲では,言語的に繋がっているべき箇所であえて音を分断する表現が散見されます.本テーマでは,WOOZI が制作に関与した SEVENTEEN の韓国語楽曲18曲を対象に,この現象の実態を多角的に分析しました. 分析手法:音声処理とNLPの組み合わせ AI音源分離ツール Demucs でボーカルのみを抽出 DAWソフト REAPER で無音区間を自動検出(-20dB以下が75ms以上継続する区間) 聴覚判定と歌詞照合の2軸で「不自然な分断」を定義・抽出 音声分析ソフト Praat で無音時間をミリ秒単位で測定 韓国語NLPライブラリ KoNLPy による形態素解析で,分断の不自然さの度合いを分類 主な発見 不自然な分断は意図的な表現技法である 楽曲ごとの「不自然率」(全分断に占める不自然な分断の割合)を算出したところ,0%の楽曲が2曲ある一方で,40%を超える楽曲も存在しました.自然な歌唱が十分可能であるにもかかわらず,特定の楽曲で集中的に使われている点は,意図的な選択であることを強く示唆しています. さらに,不自然な分断の約60%は形態素の内部で生じる「強不自然型」であり,WOOZI の制作関与度が高い楽曲ほど不自然な分断が統計的に有意に増加すること(p = 0.0378)も確認されました. 不自然な分断は楽曲の魅力に貢献している 18曲中6曲でタイトルと同じ歌詞部分に不自然な分断が確認され,タイトルを「音のロゴ」として聴覚的に印象づける効果が示唆されました.また,不自然な分断の発生位置は楽曲の20〜30%付近(サビ冒頭に相当)に集中しており,リスナーの注意を引きつける「フック」として機能している可能性が示されました. 成果と展望 本テーマの成果は,情報処理学会の研究会で発表予定です.今後は,分析対象曲の拡大による統計的信頼性の向上や,聴取実験によるリスナー側の受容の検証が課題です. K-POPの「中毒性」や「耳に残る感覚」の正体を,音声処理とNLPで解き明かすという,音楽好きならではの着眼点が光るテーマです.

March 23, 2026