【ゼミテーマ紹介】K-POPにおける歌詞構造と音楽的区切りの不一致が生み出す表現効果の分析
概要 2025年度4年ゼミ生の安達萌衣さんが,「K-POPにおける歌詞構造と音楽的区切りの不一致が生み出す表現効果の分析」というテーマでICT活用総合実習に取り組みました. K-POPグループ SEVENTEEN の楽曲制作の中核を担う WOOZI(ウジ)が手がける楽曲には,歌詞の言語的な区切りと音楽的な区切りが一致しない箇所が頻繁に見られます.例えば「살아가(生きていく)」という歌詞が「살아|가(生きて|いく)」のように単語の途中でブレスが入る現象です.安達さんはこの現象を「不自然な分断」と名づけ,それが偶然やミスではなく意図的な表現技法であることを,音声分析・自然言語処理を組み合わせた定量的なアプローチで検証しました. テーマのポイント 「不自然な分断」とは 通常,歌唱では言葉の意味のまとまりと音の区切りを一致させるのが自然です.しかし WOOZI の楽曲では,言語的に繋がっているべき箇所であえて音を分断する表現が散見されます.本テーマでは,WOOZI が制作に関与した SEVENTEEN の韓国語楽曲18曲を対象に,この現象の実態を多角的に分析しました. 分析手法:音声処理とNLPの組み合わせ AI音源分離ツール Demucs でボーカルのみを抽出 DAWソフト REAPER で無音区間を自動検出(-20dB以下が75ms以上継続する区間) 聴覚判定と歌詞照合の2軸で「不自然な分断」を定義・抽出 音声分析ソフト Praat で無音時間をミリ秒単位で測定 韓国語NLPライブラリ KoNLPy による形態素解析で,分断の不自然さの度合いを分類 主な発見 不自然な分断は意図的な表現技法である 楽曲ごとの「不自然率」(全分断に占める不自然な分断の割合)を算出したところ,0%の楽曲が2曲ある一方で,40%を超える楽曲も存在しました.自然な歌唱が十分可能であるにもかかわらず,特定の楽曲で集中的に使われている点は,意図的な選択であることを強く示唆しています. さらに,不自然な分断の約60%は形態素の内部で生じる「強不自然型」であり,WOOZI の制作関与度が高い楽曲ほど不自然な分断が統計的に有意に増加すること(p = 0.0378)も確認されました. 不自然な分断は楽曲の魅力に貢献している 18曲中6曲でタイトルと同じ歌詞部分に不自然な分断が確認され,タイトルを「音のロゴ」として聴覚的に印象づける効果が示唆されました.また,不自然な分断の発生位置は楽曲の20〜30%付近(サビ冒頭に相当)に集中しており,リスナーの注意を引きつける「フック」として機能している可能性が示されました. 成果と展望 本テーマの成果は,情報処理学会の研究会で発表予定です.今後は,分析対象曲の拡大による統計的信頼性の向上や,聴取実験によるリスナー側の受容の検証が課題です. K-POPの「中毒性」や「耳に残る感覚」の正体を,音声処理とNLPで解き明かすという,音楽好きならではの着眼点が光るテーマです.