概要
2025年度4年ゼミ生の臼田誠さんが,「視線行動の比較分析によるゲーム経験者の運転行動の研究」というテーマでICT活用総合実習に取り組みました.
自動運転技術が進む一方で,交通事故の多くは依然として人間の判断ミスや注意不足に起因しています.運転中の視線行動はドライバの注意配分やリスク認識を直接反映する重要な指標ですが,近年普及しているドライビングゲームの経験が実車運転時の視線行動にどのような影響を及ぼすのかは,十分に検討されていません.臼田さんは,アイトラッカーを用いて 実車運転とドライビングシミュレータ(Assetto Corsa)の同一コースにおける視線データを取得 し,危険区間単位での比較分析を通じて,ゲーム経験が視線戦略に与える影響を定量的に明らかにしました.
なお,本研究の成果は 電子情報通信学会 2026年総合大会 にてポスター発表を行いました.
テーマのポイント
課題:ゲーム経験は実車運転に活きるのか?
ドライビングゲームでは,進行方向の先を読んで障害物を回避するために画面中央付近に視線を集中させる行動パターンが形成されます.一方,実車運転では周囲の歩行者や標識にも注意を配る必要があります.「ゲーム経験者は実車でも探索的な視線行動を示すのか,それとも画面中央への集中が残るのか」——本研究はこの問いに,定量的なデータで迫りました.
研究方法:同一コースで実車とゲームを比較

- フィールド:群馬県碓氷峠(急カーブ・連続カーブ・見通しの悪い箇所が多く,高い注意配分が求められる区間)
- ゲーム環境:レーシングシミュレータ Assetto Corsa で碓氷峠を再現し,ハンドル型コントローラで走行
- 視線計測:ウェアラブル型アイトラッカー Pupil Core で実車・ゲーム双方の視線データを取得
- 比較単位:コース全体の平均ではなく,急カーブや視線制限箇所など 21箇所の「危険区間」 単位で1対1の対応付け比較
視線行動を捉える3つの指標
視線の特徴を定量的に評価するために,以下の3指標を定義しました.
- center_dist(視線の広がり) — 画面中央からの視線距離.値が大きいほど視線が広範囲に分布
- total_var(視線の集中度) — 視線位置の分散.値が大きいほど探索的な視線行動
- mean_speed(視線移動の速さ) — 視線の切り替え速度.値が大きいほど先読み的な視線移動
主な発見:「ゲーム経験の有無」ではなく「視線戦略のタイプ」が重要
3指標による3次元クラスタリングの結果,被験者は以下の3つの 視線戦略タイプ に分類されました.

- タイプA:探索的・先読み型(被験者00)— 全指標が高く,視線を広範囲かつ高速に移動させる探索的な視線戦略.ゲーム経験が長い被験者に多い
- タイプB:中間・混合型(被験者01・03・04)— 指標にばらつきがあり,状況に応じて視線行動を調整.最も多くの被験者が該当
- タイプC:慎重・集中型(被験者02)— 全指標が低く,画面中央付近に視線を集中させる安定志向の視線行動
特に重要な発見は,ゲーム経験が豊富な被験者であっても常に探索的な視線行動を取るわけではなく,慎重志向の被験者では視線行動が抑制的に維持される場合もあったことです.つまり, 「ゲーム経験があるか否か」という単純な分類ではなく,「どのような視線戦略を持つか」が運転行動を理解する鍵 であることが示されました.
成果と展望
危険区間ごとの分析では,約9割の区間でゲーム走行時の方が視線分布の広がりや移動速度が高い傾向が確認された一方,実車走行時にはリスク認知に基づく視線の収束も見られ,両環境における視線行動には共通点と差異の両方が存在することが明らかになりました.今後は被験者数の拡大による類型化の検証,メガネ着用時の視線計測精度の改善,操作データや車両挙動と視線データを統合した分析が課題です.