概要

2025年度4年ゼミ生の小柳怜さんが,「データ分析による代打起用の意思決定支援」というテーマでICT活用総合実習に取り組みました.

現代の野球ではデータ分析が戦略の核となっていますが,試合終盤の勝負所である代打起用については,依然として指導者の経験や「かつての印象的な一打」の記憶に頼る部分が大きいのが現状です.小柳さんは,こうした「感覚的な采配」を客観的なデータでサポートし,成功確率を最大化するための意思決定支援ツールを構築しました.

テーマのポイント

課題:直感依存の落とし穴

ある代打選手が特定の投手から劇的なサヨナラヒットを打ったとします.その強烈な印象から「彼はあの投手に強い」と判断しがちですが,実際には10打席で1安打(成功率10%)に過ぎないケースは珍しくありません.人間の記憶はたった一度の劇的な成功に支配されやすく,統計的な最適解と乖離するリスクがあります.

アプローチ:約600打席の独自データベース構築

2025年度シーズンのパシフィック・リーグ全試合から,代打起用のあった打席を調査しました.既存サイトでは代打に特化したデータの一括取得ができないため,一打席ごとに「対戦投手」「投手の利き腕」「走者状況」「打席結果」を手作業で入力し,約600打席に及ぶ独自のデータベースを構築しました.

分析手法:ロジスティック回帰による期待値算出

打席の結果を「成功(出塁)か失敗か」の二値で捉え,ロジスティック回帰分析で成功確率を算出するモデルを構築しました.あらゆる変数の組み合わせを検証した結果,以下の3要素で最も予測精度が高まりました.

  • 出塁率 — 安打だけでなく四球を選ぶ能力も代打の成功には不可欠
  • 左右の相性 — 右投手対左打者などの定説を統計的に評価
  • ランナーの有無 — 走者がいる状況でのプレッシャーや投球フォーム変化の影響

ディープラーニング等ではなくロジスティック回帰を選んだ理由は, 透明性(説明可能性) にあります.「どの要素が結果にどれだけ影響したか」が明確であり,現場の監督や選手が納得して意思決定を下すための支援ツールとして最適と判断しました.

支援ツールの実装

代打起用支援ツールの画面

自チーム・相手投手・ランナー状況を選択して「シミュレーション実行」を押すだけで,候補選手の成功確率(期待値)をランキング形式で表示します.例えば,A.マルティネス選手は通算打率.176と低迷していましたが,代打時の出塁率は .450 と驚異的な数値を記録しており,ツールはこの「局面における適性」を正しく評価しました.通算成績だけでは見落とされがちな「勝負強さ」を可視化できた好例です.

成果と展望

データが示すのは単なる数値ではなく,采配に対する 「納得感」 です.「なぜあの場面で彼を代打に送ったのか」に客観的な根拠を持って答えられる環境は,チーム内のコミュニケーションを円滑にします.今後は,試合展開に応じた動的な提案機能(僅差なら安打型,大差なら長打型を優先するなど)や,複数シーズンにわたるデータ蓄積による精度向上が課題です.